ドリルを売るには穴を売れ

ドリルを売るには穴を売れ

ドリルを売るには穴を売れ

【目次】

はじめに


序章:"マーケティング"脳を鍛える

マーケティングは身の回りで起こっている
「買い手」の反対側には必ず「売り手」がいる
マーケティング脳とは何か?
知っておくべきたった4つの理論


サブストーリー:プロローグ 宣告


第1章:あなたは何を売っているのか ― ベネフィット

顧客にとっての「価値」から考える
価値の不等号を維持する
マーケティング部」だけがマーケティングするわけではない
顧客にとっての価値=ベネフィット
機能的ベネフィットと情緒的ベネフィット
売れている商品は価値が高い
価値の源は人間の3大欲求
顧客は「欲求充足」を買う


サブストーリー:PART1 屈辱


第2章:誰があなたの商品を買ってくれるのか? ― セグメンテーションとターゲット

分けてから狙う、狙うために分ける
欲求は人によって違う
どのように顧客を分ければいいのか
心理的セグメンテーションとは
ベネフィットで分けるセグメンテーション
ふたつのセグメンテーションをつなげる
「狙う」こととは「絞る」こと
絞らなければ誰にも売れない


サブストーリー:PART2 奮闘


第3章:あなたの商品でなければならない理由をつくる ― 差別化
顧客に業界の垣根はない
競合より高い価値を提供すること
3つの差別化戦略とは何か?
差別化軸は必ずどれかに絞る
ターゲット顧客と差別化軸は連動する


サブストーリー:PART3 希望


第4章:どのようにして価値を届けるのか ― 4P

価値を実現し対価をいただく4P
野菜ジュースで考える4P
1 どんな価値を売るのか? ― 製品・サービス(Product)
   製品・サービスがどんな価値を実現するのか考える
2 価値を伝えて買ってもらうための方策 ― 広告・販促(Promotion)
   広告で差別化ポイントを訴える
   販促とは購買を促進する仕組み
3 どこで買ってもらうか ― 販路・チャネル(Place)
4 どれだけの対価を受け取るか ― 価格(Price)

4Pの一貫性が重要
差別化戦略と4Pはどう関係するか?


サブストーリー:PART4 確信


第5章:強い戦略は美しい
東京ディズニーリゾートの収益モデル
4Pから見る東京ディズニーリゾート
どのように対価を受け取っているのか?
重要なのは戦略の流れるような美しさ


サブストーリー:PART5 決着


おわりに


この本は題名買いした本。というのもid:kaz_atakaという、密かに勝手に尊敬している人が

レビット先生の、「消費者はドリルが欲しいんじゃなくて穴が欲しいんだ」という話は本当に鮮烈で、このような領域に入ったばかりの頃、僕の頭をがーんとしたものでした。

って言ってて*1、なんてこった、題名がそのまんまじゃないか。これは買わなきゃならん。中古の漫画を大人買いしてやる・・・ヌフフ、なんて考えてる場合じゃない。そんな暇があればこの本を新品でアマゾンをポチっとするべきだ、と思って買った本。
また本書とは関係ないですが、現在、kaz_atakaさんは

ちょっとまとまった書き物を書こうとしていて(他では書いてありそうで書いてない、きっと多くの人に役に立つ内容デス!)、仕事の忙しさもあり、なかなか進まないので、腰を据えて一気にかいてしまうことにしました。

と言ってられるんで*2ひじょーーーに楽しみにしてるところです。



さて、本書を読んだのは少し前。確か就活時に、合間をぬって読み2日ぐらいで読み終わったと思う。すぐに読めてしまう本。
感想を端的に述べると、自分の中に1つ視点が増えたと思える本、買ってよかったと思える本。


どんな視点が増えたかっていうと、「価値」を提供する、という視点。
就活なんかをしてても「価値」を提供する、なんていう鼻持ちならない言葉を、もうほんとにうんざりするほど聞く。「ほ〜んと、いやになっちゃうんだよね、そんな薄っぺらい言葉は」なんて思ってしまうこともあったりした気もする。そのくせ、エントリーシートには「顧客に対して価値を云々、えっへん。」みたいなことを書いたが・・・。とにかく、「価値」を提供するということは、別に格好をつけていってるわけでもなく、本気で言ってるんだということがわかった。


具体例を本書のサブストーリーから抜粋してみる。
本書のサブストーリーのあらすじは、主人公である売多真子が突然社長室に呼び出され、赤字を垂れ流しているイタリアンレストランを2ヶ月でどうにかしてみろ、と宣告されたところから始まる。先輩社員の大久保博は真子にこの案件を一任する。途方にくれる真子だったが、従兄弟でMBA持ちのコンサルタントである、売多勝がいた。この助っ人に相談をしながら、マーケティングについて学び、改善案をひねり出していく話。


抜粋部分はちょっとオシャレなイタリアンで勝とミーティングをしている場面。

「こうしてみると、わたしたち、デートしてるみたいですね」
「誰が楽しくってオマエと……」
「ひっどーい。これでも結構モテるのに…。今は彼氏いませんけど…」
「真子の私生活なんて聞いてねーよ。いいからなんでイタリアンレストランを選ぶのか考えろ」
「あ、そうか、…デート?」
「それから?」
「不倫?」
近くのテーブルにいると年の差カップルを見ながら、小さな声で答えた。
「まあそうだけど、そりゃデートと同じだ。他には?」
「女の子同士で来てる人も多いですよね。たぶん、表参道でゴハンを食べてる、っていうのがいいんですよ。オシャレっぽくって。」
「おう、真子にしては上出来な答だ」
「え、いいの?冗談だったのに」
「だってそれがホンネだろ。真子だって、初めてのデートだったら、焼肉より表参道のイタリアンとかフレンチがいいだろ」
「じゃあ、勝さん、この店にしたのは私を意識してるんだ。もー、真子困っちゃう♪」
「や、め、ろ。人聞きの悪い」
「しつれいですねー、あとは…、会社の接待とかもありますよね…」
「わかったか?」
「…わかった!お客さんは料理を食べにくるんじゃなくて、不倫にくるんだ!」
真子が声をあげると、周りの客が一斉に真子に視線を浴びせた。あわてて口をおさえたがすでに遅く、勝が苦虫をかみつぶしたような顔で真子をにらんでいた。
「は、ばかもの…。でも正解だ」

優雅なひと時を買う、みたいなことはわかってたつもりだったけど、まさにこれが価値を買うってことだと腑に落ちた。つまり、この場合だったら、お客さんは不倫やデートの成功率を挙げる(と思われる)価値も買っているわけだ。言葉で書くと当たり前なんだけど、今までよりもずっとストンっと理解できた感じがした。女の子とイタリアンを2人っきりで食べるなんて、まっっったく身近じゃないってかしたことないけど、腑に落ちた。人によって腑に落ちたと感じれる具体例は違うだろうけど、この本では料理店のマーケティングを通して伝えてくれる。



ちなみに小説のさわりを著者のHPで公開しているのでリンクを。pdfなので少しスペックの低いPCの方は注意を。
本のさわり部分PDF




さて、この小説部分はあくまで「サブ」ストーリーなので本書のメインはマーケティングの基礎理論。
その基礎理論は本書では大きく4つ取り上げている。それが第1章から第4章のメインテーマとなっている

  • ベネフィット
  • セグメンテーション
  • 差別化
  • 4P

だ。


この理論の詳細なんかは私が解説してもしょうがないので、はしょるが*3特に意識しておきたいと思った部分をまとめておく。

顧客が得る価値(ベネフィット) > 顧客が払う対価マーケティングとは、この価値の不等号を維持・拡大するためのすべての行為をさす。

また価値には機能的な価値、情緒的な価値の2つがある。前述のイタリアンレストランで提供している価値は情緒的な価値にあたる。
価値というと聞こえは良いが、価値には対応する欲求があり、この欲求を満たすものが価値を持つ。その欲求には自己欲求、社会欲求、生存欲求の3つ があると著者は説く。これはよくあるマズローの5段階欲求説を基にした考えだ。


しかし、欲求は人によって異なる。そのため別個に対応していく必要が生じる。この別個に対応するために分けるのがセグメンテーションであり、セグメンテーションをするのは別個に対応、つまり狙いをつけるからするものである。そのため、狙いとセグメンテーションは別々の考えのもとでおこなってはいけない。

その分け方だが、よくあるのが「30代」の「男性」などだ。これの利点はもれなくダブり無くわけられることだ。*4
他にも心理的セグメンテーションや、ベネフィット別セグメンテーションなどがある。顧客にベネフィットを提供するという意味から考えるとベネフィット別のセグメンテーションでわけて狙っていく、というのが商品の開発的にも好ましいが、このベネフィット別のセグメンテーションは如何せん難しいのが難点である。
またid:kaz_atakaのブログで読んだ、「オケージョン」別のセグメンテーションという考え方もすでに頭に入っている、つもり。これについては、市場における原子を。


このように狙いを定めて、顧客の前に出しても他の商品も同様に狙いを定めてくる。このときに差別化が必要となってくる。
このときの軸として、手軽軸・商品軸・密着軸の3つを提供している。3という数字が多いのは、私のような人のためのいつもの理由。


他にも色々と読みながらドックイヤー*5をつけていった。例えば販促に関すること。クーポンはもちろん販促だけど、無料にするようなクーポンは安易。サンプリングをかねるようなクーポンにしろ、などなど。


ただ、あまり書き連ねても仕方が無いので最後にまたサブストーリーから抜粋をする。
真子は、イタリアンレストランの企画を考えていくうちに、なにもイタリアンレストランのことを知らないことに気づき現場に出て、そして実際に本場イタリアのシチリアに行くことにした。(店員の望と2人で)数日間だが、そこにいたレイさんから色々学びを見にいって企画に活かそうとした。

数日間であったが、レイの案内のおかげで2人は濃密な時間を過ごした。(中略)余韻にひたるヒマもなく、帰りの飛行機でも真子は必死に企画書を書いていった。


だがその筆の進みは驚くほど速く、企画書はすいすいと仕上がった。今までも必死に考えてはいたのだが、それがいかに「机上の考え」だったかを思い知らされた。隣に座る望と話していると、あれだけ考えても出なかったアイデアが魔法のようにわいてきた。


とある。結局は現場であったり、本場であったりを知ることの大切さがマーケティング、つまり価値の不等号を維持・拡大するためには大きな要因となってくるということだ。マーケティングは買う側に対しての売る側の行為であり、売るためには買う側に近寄らなければ売れない、声も手も届かないということだ。当たり前だけど、それが一番大切なんだと思う。しかしただ闇雲に買う側に近寄って、埋もれてしまってもいけない。そのためのマーケティング理論であると思う。現場的な経験と理論の補完がマーケティングでは物凄く重要になってくるのだと思う。



さて、長々と書いたがこの本を読もうと思った理由がもう1つある。それは私の就職先としてマーケティングを専門とする比較的小さな会社が候補としてあったからだ。そこに就職して、現場に出るためにもある程度体系的な理論に目を通しておきたいと思った、ということだ。
というのも、どうやら私は初めての経験や初めて得た知識を十分に体系化できないようだからだ。これは致命的なことだとは分かっているが、うまく体系化できない。これは研究をしていてそう感じた。自分が行っている研究は、萌芽的研究であり、まだまったく体系化されていないのだが、これを自分で少しでも体系化していきながら考えないとまったく実らない。しかし私はどうやらその力に乏しい。なぜ、今までそのことに気づかなかったのかというと、例えば今まで勉強してきた数学や物理なんていうものは先人が体系化してくれており、中高で学ぶカリキュラムも体系化されたものを学んでいくカリキュラムをこなしていただけだから感じることがなかった。学校のカリキュラムはもちろん問題も抱えているが、うまく段階を踏んでいってくれるという意味では本当によくできたカリキュラムだ。


さて、話を戻すと、研究についてももちろん頑張るつもりでいるが、自分が食っていく職業の候補として考えていたマーケティングは、そんなヒマもないだろうし、そもそもすでに先人が体系化してくれているものがあるならそれをまず見ようと考えて、読んでみたわけだ。


実際に読んでみて、頭の中にマーケティングが体系化されたかというと、まだまだその感覚はない。それは基礎的な本であり、理論としての絶対量が少ないことと、演習的なことをしていないからだろう。演習とは今回読んだ本で得た視点、価値を提供するという視点を持って世の中の製品を見ていくこと。これは日常に溢れている。そして、これは製品だけではなくて、サービスや、ゆくゆくは人の行動にも適用できる。
そういう意味で、マーケティングの分野で働かないことに決めた今後の私にとっても
本から得た知識、視点、今後視点によって得ていくであろう価値の総和 >>> 税込み1500円
だったと思う。

*1:http://d.hatena.ne.jp/kaz_ataka/20080615/1213538276

*2:http://d.hatena.ne.jp/kaz_ataka/20090402/1238623155

*3:面倒とかじゃない

*4:MECE

*5:7倍の方じゃなくて本の隅を折る方